昨年から、国会議員が育休を取得するという話題に対して賛否両論となっているところです。また、育休関連については、有期雇用労働者に対しても育児休業を取得しやすくするための提案がされてきました。そんな中、社会保険労務士として、日々の手続き業務を行う中で、それ以上に疑問を感じていたことがあります。それは、短時間労働者などの産前産後の所得補償についてです。さらに、産後については、「ママがもらえないのに、パパがもらえる出産日の翌日以後8週間のおかね」というのもあります。

 

■ママがもらえないのに、パパがもらえる産後の育児休業中のおかねとは?

一定の要件を満たす雇用保険の被保険者に対して支給される育児休業給付というおかねがあります。原則、産後休業(出産日の翌日以後8週間)が終了した翌日から、赤ちゃんの1歳の誕生日の前々日までの期間とされています。しかし、男性の育児休業給付は出産日から対象となります。つまり、「“産後8週間”の育児休業給付はパパにしかない」ということになります。

社会保険に加入している女性には、産前・産後休業期間中は、健康保険から出産手当金が支給されます。出産手当金を受給するには、あくまでも健康保険の被保険者である必要がありますので、社会保険に加入していない女性には、この期間の国からの給付はありません。では、出産・子育て期の女性がどのくらい社会保険に加入されているのでしょうか。女性の産前産後の所得補償への疑問について考えてみます。

 

■出産育児に関連する国の給付金の違い

まずは、分かりやすくするために、出産育児に関して国からもらえるおかねについて簡単にまとめることにします。産前(出産予定日以前6週間。双子以上の場合は14週間。)・産後(出産日の翌日以後8週間。)に給付されるおかねと、育児休業期間中(原則、産後休業の終了日の翌日から赤ちゃんが1歳に達するまで。)に給付されるおかねとでは、対象の保険が違います。

1.出産育児一時金(健康保険か国民健康保険の被保険者、両方対象。)
健康保険か国民健康保険に加入していて、妊娠4か月(85日)以後で出産したときに支給されます。
2.出産手当金(健康保険の被保険者が対象。国民健康保険は対象外。)
産前42日(多胎妊娠の場合98日)・産後56日に会社を休み、お給料が出ない場合に、産休中の生活を支えるために支給されます。※一定の条件を満たす必要があります。
3.育児休業給付金(雇用保険の被保険者が対象。)
赤ちゃんを育てながら働くママとパパの育児休業中の生活を支えるために支給されます。ママは産後休業の終了日の翌日(パパは出産日)から、原則は赤ちゃんが1歳になるまで、特別な理由がある場合は1歳6か月までもらえます。ママとパパが育休をとる場合は、原則1歳2か月まで取得可能です。※一定の条件を満たす必要があります。

 

■多くのパート・アルバイトなどの短時間労働者には、産前産後の所得補償がない

前述の給付をそれぞれ比較すると、出産育児一時金は、健康保険でも国民健康保険でも対象なのに対し、出産手当金では国民健康保険は対象外です。また、産後8週間においては、パパは雇用保険からの給付対象期間であり、ママは健康保険からの給付対象期間となっています。

健康保険は社会保険ですから、正社員かフルタイムの有期雇用労働者(契約社員)の割合が高く、多くのパート・アルバイトなどの短時間労働者は産前産後の所得補償の対象外となります。

 

■女性の短時間労働者の比率

それでは一体、女性の短時間労働者の比率はどれくらいなのでしょう。平成26年の総務省統計局「労働力調査」によると次の通りです。(※ここでは、「短時間労働者」は、週の就業時間35時間未満の者です。)

1.短時間雇用者は近年増加しており、その約7割が女性。
2.女性雇用者総数に占める女性短時間労働者の割合は47.5%。

さらに、パートタイム労働者総合実態調査(平成23年)(厚生労働省)では、パートタイム労働者の今後の働き方の希望を見ると、「パートで仕事を続けたい」が72.6%となっていました。

短時間労働者であっても、条件を満たして、社会保険へ加入されているかたもおられますが、多くの場合は、社会保険への加入はされていないと考えられます。女性雇用者全体の半数近くが短時間労働者なのですから、やはり、産前産後の所得補償についての適切な対策が求められるのではないでしょうか。

 

■今年の10月からはパートの社会保険の加入要件が緩和

「1.社会保険へ加入していない短時間労働者の産前産後の所得補償」や「2.パパにはあるのに、ママにはない産後の育児休業給付」などを前述してきましたが、法改正によって、今後は1については長期的には改善されていくことが予想されます。

平成28年10月からは改正により、社会保険の加入要件は緩和され、次の要件を全て満たす短時間労働者は社会保険に加入することになります。

・週所定労働時間20時間以上
・賃金月額8.8万円以上
・勤務期間1年以上(見込み)
・学生は除外
・従業員規模501人以上の企業 (*平成31年9月30日までの時限措置)

ちなみに、現段階での社会保険加入要件は、下記の二つを満たす必要があります。

・1日または1週間の勤務時間が、一般社員の概ね4分の3以上
・1か月の勤務日数が、一般社員の所定労働日数の概ね4分の3以上

この法改正より、短時間労働者の社会保険加入者は増え、出産手当金の対象になる方も増えるでしょう。しかし、少しでも早く、女性が安心して出産・育児をしながら働きやすい環境を整えることが、急務である国の出生率の改善に繋がることを考えても、産前産後の所得補償については、さらに柔軟な対応が求められます。

 

■働く女性の産前産後休業中の所得補償に弾力的な対応を

産前42日(多胎妊娠の場合98日)・産後56日は、母体保護のため、法律により休業が保障される期間です。この期間の休業については、当分の間は、「社会保険に加入していない短時間労働者には雇用保険からの給付対象」とすることや、「出産一時金と同じように、健康保険の被扶養者や、国民健康保険に加入されている方にも出産手当金を対象」としてはいかがでしょう。

もちろん、具体的な部分まで詰めていくと、制度間での壁もでてくるでしょうが、出産手当金を、出産育児一時金と同じように、健康保険の被扶養者や、国民健康保険に加入されている方にも対象とすることで、フリーランスなどを含む、働くママみんなが、産前産後の働けない可能性のある期間への不安を軽減し、躊躇することなく出産にふみ切れる一つの要因ようになるかもしれません。

国が出産を推進しているのであれば、法律で母体が保護されている産前産後の期間ぐらいは、出産・育児と両立しながら働くママの所得補償について制度を改善していく必要がありそうです。

【スポンサードリンク】



【スポンサードリンク】